2017年5月26日金曜日

スミオさん、あんた、福島の井戸を掘る人に、福島の鬼になれ(16.12.22)

今野さん
こんばんわ、川越の柳原です。

金曜日は厳寒の中、スピーチ、ご苦労様でした。

今野さんと初めて会い、口を聞いたのは2年前2014年の8月の提訴のとき、それから測定にずっと一緒でした。はじめ、なんで、この人、こんなことをしてるんだろう?と不思議でなりませんでした(ほかに、こんなことしている男性、いませんでしたから)。
最近、やっと、今野さんのやっていることが分かったような気がしました。
彼は徳を積んでいるのだ、それも終わることなく(今ごろ、分かったのか!と座布団が飛んで来そうですが)。

一時的に、徳を積むのは誰でもできます。難しいのはそれを持続させることです。
この2年間、今野さんを見ていると、徳を積むのをやめない。やめないどころか、あちこちに出没して、ますます一生懸命積んでいるらしい。

9月にやった世界社会フォーラムの報告会のキャッチフレーズは
「当事者が立ち上がらねば!」
でしたが、今野さんは、これを文字通り、実行しようとしている人のように見えます。

この間、裁判のテーマが本命の「低線量被ばくの危険性」に移り、疫学的問題が避けて通れなくなったので、文献を調べていて、水俣病の疫学的問題に出会い、その問題で最も鋭い指摘をしている文章に出会いました。
水俣病誌
 
この文章の著者が、それまで、過激な行動で知られた川本輝夫とは知らず、ビックリ仰天しました。
彼はこう言った。
水俣病は病気じゃない。犯罪だ。我々は有機水銀という匕首を呑まされた。あまりにも不条理なことですたい。

その通り。
そして、今野さんなら、こう言うでしょう。
福島原発事故は事故じゃない。犯罪だ。我々は放射能という匕首を呑まされた。あまりにも不条理なことですたい。

この本に紹介された川本輝夫の行動を初めて読み、彼が、本当に得を積んだ人間であることを知りました。
※ドキュメント自主交渉
 
映画監督土本規昭の「川本輝夫との30年」
石牟礼道子「テルオさんのこと」
これだけ徳を積んだ人だから、チッソ社長を前に一歩も譲らぬ自主交渉が実を結ぶことができた。
チッソ社長と交渉する川本輝夫
 
今では誰もが水俣病を知っている。しかし、最初からそうだった訳ではなく、知られるような出来事があったからで、それが川本輝夫たちの鬼の行動=非暴力直接行動によるものであったことも知りませんでした。
映画監督の土本は川本輝夫のことを「井戸を掘ったひと」と呼びました。

スミオさん、あんたも、テルオさんみたいに、福島の井戸を掘る人になって、福島の鬼になって下さい。

3.11以来、「福島の鬼」の必要性が叫ばれながら、なかなか出現しませんでした。ただし、誰もが鬼になれる訳ではなくて、徳を積んだ人でないと無理です。

今野さんは、この間、一生懸命、徳を積んできました。鬼になる資格十分です。

鬼になって、川本輝夫みたいに、福島で井戸を掘って下さい。

私等も力の及ぶ限り応援しますから。


追伸
映画監督土本典昭が川本輝夫を評して、「ミナマタ井戸を掘った人」と呼んだ文章の中でこう書いています。

川本さんの名前は固有名詞としては川本輝夫ですけど、逃げ場のないところまで追い詰められて立ち上がった人達の固有名詞のひとつ、水俣病闘争のぎりぎり切羽詰まった闘いの突破者であったというふうに私は思います。

いま、福島も同様です。
逃げ場のないところまで追い詰められた人々の突破口を切り開いた=井戸を掘る人です。

5年前、疎開裁判を提訴した当時、裁判で勝訴したら、そのあと、判決を手に政府との団体交渉で全員救済の道筋を作る、という漠然としたロードマップしか持ち合わせていませんでしたが、この本から、水俣で血のにじむようなモデルがあったことを今回初めて知りました。

福島の5年間に水俣の50年が凝縮されている(16.12.23)

来年早々、関西の法廷で、低線量被ばくによる健康被害の影響に関する原告住民と国側の決戦の証人尋問をやります。
そのために、今までずっと敬して遠ざけてきた疫学・統計解析の問題と向き合わなければならないと腹を括り、その勉強をしています。

その中で、ビックリするような文献に出会いました。

水俣病誌」 に収められた
「認定はどうあるべきか--水俣病の疫学と病像--」
です。
どんな専門家が書いているのだろうかと思ったら、あの毀誉褒貶激しい川本輝夫さんだったからです。

そしたら、その本の付録に石牟礼道子さんの
「テルオさんのこと」
 に、川本さんが六法全書を手放さず、読み込んでいた話が紹介されていて、二度、ビックリ。

今まで、水俣のことは訴訟派、関西訴訟派、自主交渉派、交渉一任派・・・いろんなグループが入り乱れていて、なかなかその全体像がつかめなかったのですが、
今回、医師の原田正純さんを手がかりに読んでみて、ようやく、水俣病の全体像が自分なりに掴めた気がしました。

そしたら、水俣の50年は311以後の福島の5年間に凝縮されていると分かりました。
日本政府は、チェルノブイリ事故から学んだだけではなく、もっと前から、この50年間の水俣病からもしっかり学んで、それを福島に応用して、住民を徹底的に押さえ込んでいることが分かりました。

その一端は原田正純さんの「水俣への回帰」の冒頭の数ページでも明らかです。

ここには、低線量被ばくと対応する低濃度汚染の問題も取り上げられています。なお、先日、入手した低濃度汚染の問題を取り上げた資料は以下です。
新たにわかってきた水俣病のはなし

・・・実は、以上のことは、すでに4年前、マコ・ケンさんが、疎開裁判のMLで紹介していたことでした。

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Subject: [3arrow:11028] 水俣病裁判の国側の主張や、水俣で闘っておられる方々から福島の方々への伝言。
From: おしどりマコ
To: 3arrow@freeml.com
Date: Sat, 1 Dec 2012 11:29:38 +0900 (JST)

自分の記事の紹介ですが、
水俣病の裁判関連と、
あと、水俣病で闘っておられる方々から、福島の方々への伝言を預かってきましたので、
よろしければご覧ください。

おしどりマコ拝

マガジン9・脱ってみる?第53回
『「人様は変えられないから自分が変わる』水俣病資料館の言葉を噛みしめる件。」

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もっと力があったら、あの当時もっと早く、マコさんの指摘で目覚めることができたのですが・・・
今から、頑張ります。

ちなみに、今回、原田さんの書いたものを読み、
水俣を代表する医師である原田さんを作ったのは被害者の人たちであり、とりわけ川本輝夫さんだったことを知りました。

川本輝夫さんが「水俣の鬼」として非暴力直接行動に出て、水俣病を全国に知らしめ、自主交渉で突破口を切り開いた背景には、深い人間愛と飽く事のない探究心があったことを知りました。
チッソ社長と交渉する川本輝夫

現在の私の大きな課題は水俣の教訓の学び、「福島の鬼」の出現、そしてその支援です。

2017年5月19日金曜日

経過観察問題(1):福島県は、《『経過観察』中に『悪性ないし悪性疑い』が発見された症例の数は把握していない》と答弁(2017年5月19日子ども脱被ばく裁判)

経過観察問題(その):福島県は、《求釈明の対象を福島県立医大付属病院における症例に限定した場合であっても、被告福島県において本訴訟における求釈明に対する対応として調査し、明らかにする余地はない。答弁20110月1子ども脱被ばく裁判)->こちら
経過観察問題(その):福島県は、《福島県に県民健康調査の甲状腺検査で「経過観察」となった2523人の子どものうち「悪性ないし悪性疑い」が発見された症例数を明らかにする義務もなければ、症例数を把握する鈴木眞一教授らの研究プロジェクトとも関わりはない》と答弁(2018年1月22日子ども脱被ばく裁判) ->こちら
関連記事「184人以外にも未公表の甲状腺がん〜事故当時4歳も」(Ourplanet-TV 2017.3.20)
               「存在していた!福島医科大『甲状腺がんデータベース」(Ourplanet-TV 2017.8.30)

 
福島県は、《『経過観察』中に『悪性ないし悪性疑い』が発見された症例の数は把握していない》と答弁201子ども脱被ばく裁判)

 今年3月末、NPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金」の会見(→会見動画)で、福島県は県民健康調査の甲状腺の二次検査()で「経過観察」とされた子ども(単純合計で)2523人は、その後「悪性ないし悪性疑い」が発見されても、その数を公表していなかった事実、つまり福島県が公表した190人(今年3月末時点)の患者以外にも未公表の患者がいることが明らかになりました。

二次検査:超音波による一次検査でのう胞 20.1mm以上結節 5.1mm以上の判定だった子どもを対象に行なう、詳細な超音波検査、血液検査などの精密検査。

 この事実は、低線量被ばくによる子どもたちの健康被害の危険性を問う「子ども脱被ばく裁判」にとって極めて重要な問題であり、本年5月、原告は被告福島県に対し、速やかに、その数を明らかにするように裁判で主張しました。以下が、その書面です。


  これに対し、2017年8月、被告福島県は、
 『経過観察』中に『悪性ないし悪性疑い』が発見された症例の数は把握していない。
マークがいくつあっても足りない末尾回答書(1頁。黄色の線で表示を提出。PDFは->こちら

       ***************

平成26年(行ウ)第8号ほか
原告  原告1-1ほか
被告  国ほか
――いわゆる経過観察問題について――
2017年5月1
福島地方裁判所民事部 御中        
原告ら訴訟代理人   井  戸  謙  一
ほか18名  

目 次
1、問題の所在                            

1、問題の所在
福島県民健康調査の甲状腺検査のスキーム(枠組み)は、次頁の図の通り、一次検査でBまたはC判定の者は二次検査(精密検査)を受けるが、二次検査の結果、治療(手術等)が必要とされない者は「経過観察」とされ、通常の保険診療に移行するとされている。

 
 ところが、本年3月31日、NPO法人「3・11甲状腺がん子ども基金」の会見により次の事実が明らかになった――福島原発事故当時4歳の男児が上記甲状腺検査の二次検査の結果、「経過観察」とされたが、その後、穿刺細胞診で悪性の疑いがあると診断され、昨年、福島県立医大で甲状腺の摘出手術を終えたが、福島県立医大はこれまでに、同大で摘出手術をした事故当時4歳の上記症例を県民健康調査のデータとして公表してこなかった。福島県立医大も同月30日、この事実を認め、ホームページに釈明の文章を掲載した[1]

  しかし、もともと福島県民健康調査の目的は、福島原発事故による放射性物質の拡散等を踏まえ、《県民の健康状態を把握》することであり、その現状把握により《疾病の予防、早期発見、早期治療につなげ、将来にわたる県民の健康の維持、増進を図ること》である(福島県立医大のホームページ「福島県民健康調査とは」)。この目的に照らせば、県民が「経過観察」中であろうとも悪性腫瘍が発見されれば、福島県民健康調査がそれを把握するのは当然である。それをしなければ、小児甲状腺がんに関する県民の健康状態を正確に把握し、正しく評価することは不可能となる。2015年4月まで甲状腺検査を担当していた鈴木眞一教授も、同年2月2日開催の第5回甲状腺評価部会で「経過観察中に悪性腫瘍が発見された場合はどのように扱われるのか」という質問に対して、「そういう症例があれば別枠で報告になる」と回答しており、県民健康調査のデータとして公表することを当然のことと予定していたのである。

  以下、上記甲状腺検査の二次検査で「経過観察」とされ、その後悪性腫瘍が発見された症例が県民健康調査のデータにカウントされない問題が本訴において極めて重大な問題であることを明らかにし、その抜本的な是正を被告福島県に求めるものである。

2、甲状腺検査の二次検査で「経過観察」とされた者の数

 福島県が今年2月20日までに公表した甲状腺検査に関する次頁のデータによると、二次検査で「経過観察」となった者は、1巡目(先行検査)1,260人、2巡目(第1回目本格検査)1,207人、3巡目(第2回目本格検査)56人であり、一部に重複する可能性があるが、とりあえず単純合計で2,523人にのぼる。

最新の福島県「県民健康調査」検討委員会(平成29220日第26)の配布資料2-1(5頁)によれば、2巡目の第1回目本格検査で「悪性ないし悪性疑い」の判定となった69人のうち実に63名が先行調査でA判定で「経過観察」とされた者であり、この点も考慮すれば、A判定とは異なり、もともと精密検査の必要があるとして二次検査を実施した者のうちひとまず「経過観察」となった2,523人の中から、上記の事故当時4歳の男児以外にも悪性腫瘍が発見される可能性がどれほどの数にのぼるのか見当がつかない。
                   OurPlanet-TVのホームページより

3、「経過観察」中に悪性腫瘍が発見された症例が県民健康調査のデータにカウントされない問題点

 言うまでもなく、それにより、小児甲状腺がんに関する県民の健康状態を正確に把握し、健康被害と放射能の関係について正しく評価することが困難となる。その結果、被ばくによる健康被害に対する救済を正しく決定することも困難となる。のみならず、本訴において、現在の福島県で子どもたちが生活することの危険性が最大の争点であり、小児甲状腺がん患者の数はこの争点の判断にとって重要な指標であるところ、県民健康調査のデータが正確な数を示していないため、この争点の判断が困難となる。

とりわけ、この問題点の重大性を端的に示したのが、今回明らかになった原発事故当時4歳の男児の症例である。なぜなら、上記NPOの会見によれば、上記男児は2015年に穿刺細胞診で悪性と診断され、昨年前半に福島県立医大で甲状腺の摘出手術を終えた。にもかかわらず、福島県民健康調査「検討委員会」は昨年3月、「中間とりまとめ」を公表し、小児甲状腺がんの多発は「放射線の影響とは考えにくい」とし、その理由のひとつとして、小児甲状腺がんになった「事故当時5歳以下の子どもがいない」ことを挙げた。しかし、現実には「事故当時5歳以下の子どもがいた」のであり、なおかつ「中間とりまとめ」の作成中に福島県立医大はこの事実を知っていた可能性が高い。もしそうだとしたら、「小児甲状腺がんに関する県民の健康状態を正確に把握し、正しく評価することが不可能」という問題は単なる過失では済まされず、それは原告が提訴以来主張している被告福島県の独自の注意義務違反行為として、『福島県民の放射線被害調査とかけ離れた「県民健康管理調査」の実施と情報操作』(訴状44頁以下)の新たな問題に発展する。

4、小括

 以上の通り、甲状腺検査の二次検査の「経過観察」中に悪性腫瘍が発見された症例が県民健康調査のデータにカウントされない甲状腺検査のスキームは、小児甲状腺がんに関する県民の健康状態を正確に把握し、健康被害と放射能の関係について正しく評価することを困難にし、それらに基づいた迅速な被害救済を困難なものにするもので、1で前述した通り、2015年2月当時、甲状腺検査を担当していた鈴木眞一教授の「別枠で報告になる」という回答にも県民健康調査の本来の目的にも反するものであって、断じて許されることではない。
 ちなみに、千葉大の上里達博教授(科学技術史)は、最近の大手日刊紙(平成29年4月21日朝日新聞朝刊)において、「安全と安心」の問題をめぐり、安全は科学的基準だけで決定されるものではないし、電車で人の足を踏んだ者が、謝罪もせずに、その程度の踏まれ方なら怪我はしないと論(科学的)を尽くして説明しても、踏まれた相手は、その者の説明は信用しない(できない)と論じていたが、県民健康調査の今回の問題は、この類のものである。放射線被害についての正確な科学的知見を得るには、また、当該知見が原告らに安全と安心を与えるには、被告福島県における情報の的確な把握と公開が不可欠であり、もし情報公開が不完全であればあるほど、予防原則に基づく危険回避措置の要求は高まらざるを得ない。本訴の的確な審理と判断のためにも、被告福島県は県民健康調査における甲状腺がん発症者の正確なデータの把握に努め、これを公開すべきである。

5、求釈明

 3で前述した通り、本訴において、現在の福島県で子どもたちが生活することの危険性が最大の争点であり、小児甲状腺がん患者の数はこの争点の判断にとって重要な指標である。よって、原告は被告福島県に対し、甲状腺検査の二次検査の「経過観察」中に「悪性ないし悪性疑い」が発見された症例の数を速やかに明らかにすることを求める。
以 上

[1]http://fukushima-mimamori.jp/qanda/thyroid-examination/thyroid-exam-other/000396.html

被告福島県の回答(準備書面(10))