2014年5月27日火曜日

北海道での「ふくしま集団疎開裁判」講演レジメ(2014.5.26)


レジメ

0、はじめに(自己紹介)

3.11まで原発や放射能に無知だった。3.11以後、なぜ疎開裁判に関わるようになったのか。
バイテク・センチュリー」との出会い
禁断の科学裁判先端科学技術である遺伝子組換え技術の裁判に関わる中での「遺伝子組換えムラ」の住民たちとの異常な体験

1、福島原発事故
(1)、福島原発事故は2度発生する。
 1度目は「
人間と自然との関係」の中で、2度目は「人間と人間との関係」の中で。


2度目の「人間と人間との関係」の中で発生する事故とは、1度目の「人間と自然との関係」の中で発生した事故がその後意図して操作(マインドコント ロール)されたものである。従って、その操作が発覚したとき、市民の科学技術とそれを運用・管理する人たちに対する疑心暗鬼・不信感は極大に達する。

但し、たとえ運良くその操作が発覚せず、市民の目を欺くことができたとしても、自然を欺くことはできない。どんなマインドコントロールも「人間と自然との関係」の前で無力である。自然は情け容赦なく人間を裁く。

その上、「人間と自然との関係」で、今日の専門化し、細分化し、分断化された科学技術では自然の全体像を正しく把握することができない。そのため、自 然を人工的に利用するにあたって生じる危険性についても正しく把握することができない。この意味でも、今日の科学技術は「人間と自然との関係」の前で無力である(『安全と危険のメカニズム』補足より)。
参考->危険は人によって作られる! 共著「安全と危険のメカニズム」第3章「市民の科学への不信はいかにして形成されるか」第4章「座談会」184~187頁より)

(2)、
「見えない、臭わない、味もしない、理想的な毒」を認識する視点:視差(ズレ)の中で考える。
さきに、私は一般的人間悟性を単に私の悟性の立場から考察した。今私は自分を自分のではない外的な理性の位置において、自分の判断をその最もひそかな動機もろとも、他人の視点から考察する。
 両者の考察の比較は確かに強い視差を生じはするが、それは光学的欺瞞を避けて、諸概念を、それらが人間性の認識能力に関して立っている真の位置におくための、唯一の手段である。(カント「視霊者の夢」)
A.時間的な視差:3.11以前と以後との対比
B.場所的な視差:チェルノブイリと福島との対比
C.人的な視差:「政府要人・自治体要人・原子力ムラ住民とその家族」と一般市民との対比 例 郡山市長 

 ※本日の検討
 ①.世界からみた福島原発事故(日本内部との対比)
 ②.世界史から福島原発事故(百年前との対比)

2、世界からみた福島原発事故

①.菅谷昭松本市長14.4.24) 
  なぜ、今頃、こんなメッセージを表明したのか?

②.外国から 5人の代表的な声(2013年4~5月)
  ファッション・デザイナー
 キャサリン・ハムネット

    スイス・ジュネーブ市長 レミー・パガーニ

    人権活動家 ノーム・チョムスキー
    フランス前環境大臣 コリンヌ・ルパージュ

    小出裕章(非日本的日本人)

  外国から無名の人々の声  イタリアからのメッセージ
なぜ、彼らはこのような声を発したのか?

③.ふくしま集団疎開裁判を報道するニュース

国内。テレビは2011年6月24日の申立時にTBSNEWS23一社のみ。以後、一切なし。

国外。韓国、ドイツ、フランスの公共放送が取材・放送。  
④.福島の現実(201210月のジュネーブ国連でのスピーチから)

  日本政府の三大政策「情報を隠すこと」「事故を小さく見せること」「様々な基準値を上げること」
          チェルノブイリ事故から徹底して学んでいること。
          例 キエフの学童疎開→
2011.4.19 20倍引き上げ


  健康被害の実態:小児甲状腺がんの検査結果
           ベラルーシの35倍14.2.7)
           →最新の5月19日の発表で40倍
           スクリーン効果論の「崩壊」確実(14.5.19)
           郡山保健所から配布の副読本「がんのおはなし
  最近の福島 福島市の中学校正門付近の線量
        車窓の線量(磐越東線 引船~郡山)

  映画『シンドラーのリスト』を作ったあとのスピルバーグの発言
 「ホロコーストで起きていたことは、当時、チャーチルもルーズベルトも知っていた」(
歴史の反復

⑤.2013年4月24日の仙台高裁の決定(判決) 
  →画期的な事実認定(理由)と理不尽な結論(主文)との矛盾

⑥.松本子ども留学プロジェクトのスタート
一刻の猶予もならない子どもたちの救済を、市民の手で市民型公共事業としてスタート

 
3、戦争との対比
 大岡昇平の「レイテ戦記」

 

4、世界史から見た福島原発事故
 第一次世界大戦との類似性


5、「美味しんぼ」の言論抑圧問題

私の抗議文->自らは説明責任を果さず、少数意見の表現者には「断固容認でき」ないと抗議声明を出す福島県の言論抑圧に抗議する

3つの主体の人権侵害、その結果、最大の被害者は、福島の「子どもたちの命と健康」

    作者の表現の自由 (1)、経験した事実(鼻血・除染) (2)、不確実な科学的事実(被爆と健康被害の関係)

    市民の知る権利(表現の自由は民主主義の基盤である「自由な言論と討論の広場」にとって不可欠

    被害者である福島の人々の経験した事実や真実と信ずる見解を表明する自由

 「鼻血は事実」~福島の母親「美味しんぼ」言論抑圧に抗議
 
    最大の被害者である福島の子どもたちの命と健康という人権

ジュネーブ国連でのスピーチ「福島から訴える」草稿(2012.10.27)



1、私が申し上げたいことは、「日本政府は、今すぐ、ふくしまの子どもたちを安全な場所に集団避難させよ!」ということです。さもないと、沢山のふくしまの子どもたちの命と健康が奪われるからです。フクシマに21世紀のホロコーストを再現させてはなりません。

2、日本政府はチェルノブイリ事故から実に沢山のことを学んできて、昨年311日の福島第一原発事故のあと、その成果をすばやく、忠実に実行しました。それが日本政府の3大政策です――第に「情報を隠すこと」第2に「事故を小さく見せること」第3に「様々な基準値を上げること」でした。
(1)、情報を隠すこと
ソ連政府は避難地域を拡大したくなかったので、避難地域の外にあるベラルーシ・ゴメリの高濃度汚染の情報を隠しました。日本政府も、避難地域を拡大させないために、放射能汚染を予測するシステムによって得られた汚染情報を隠しました。その結果、この情報を知っていれば避けられた被ばくを、多くの市民が余儀なくされました。
被ばくによる甲状腺がんを予防するためには、事故後直ちに安定ヨウ素剤を服用することは周知の事実でしたが、ソ連政府は市民に安定ヨウ素剤を配布しませんでした。そのため、多くの子ども達が甲状腺がんになりました。日本政府も安定ヨウ素剤を配布しませんでした。独自の判断で配布した町に対し、回収するように命じさえしました。その結果、いま、沢山のふくしまの子どもたちの甲状腺に異常が見つかっています。

(2)、事故を小さく見せること
ソ連政府は、事故後最初の演説で「放射線のレベルは人体に影響はない程度だ」と言いました。日本政府も、事故直後「健康に直ちに影響はない」を連発しました。

(3)、様々な基準値を上げること
ソ連政府は、キエフ市が学童疎開を開始する前日に、年間被ばく許容基準を100倍に引き上げました。その結果、キエフ市以外では学童疎開ができなくなりました。日本政府も、自治体が学童疎開を開始する前に、すばやく学校の安全基準を20倍に引き上げました。その結果、ふくしまの学校はどこも学童疎開できなくなりました。しかし、いったい、どうやって子どもたちに「君たち福島の子供たちは、被ばくしたので、本日から放射能の感受性が20倍にアップしました」と説明したらよいのでしょうか。日本政府は「緊急時」のやむを得ない措置だと言いましたが、昨年12月、野田総理が原発事故は「収束した」と宣言したその後も、依然、20倍の「緊急時」の措置が続いています。この矛盾を、どうやって子どもたちに説明したらよいのでしょうか。

以上の結果、日本政府の3大政策の最大の被害者は子どもたちです。
原則として原発20キロ圏外の福島の子どもたちは、事故後現在まで、放射の汚染地域に住み、学校に通っています。以下は福島原発から60キロ離れた郡山市の地図です。昨年8月発表された空間線量のデータに基づき、チェルノブイリの住民避難基準を当てはめると、郡山市の市街地の殆どが、チェルノブイリの住民避難基準で住民が避難する義務を負う移住義務地域に該当します。このような危険な地域に多くの子ども達は住み、教育を受けているのです。

 
しかも、日本政府が提供した線量計は、地域住民が実際に受けている放射線量の値の半分しかないことが専門家の調査により明らかにされました(2012年10月5日「内部被曝研の報告」。


福島県の小中学校や公園の約500ヶ所で、2台の線量計が並ぶ光景が見られます(写真上)。右は政府から契約を解除された業者が納入したもので、左と比べ値が最大40%高い。理由は右が世界標準の仕様であるのに対し、左は日本標準の仕様だからです。原発事故後も引き続き、日本政府により「事故を小さく見せる」「安全・安心」神話作りが懸命に進められています。

その結果、事故後1年を経ないうちに、福島の子どもたちに次のような健康被害が明らかになりました。

3、子どもたちの健康被害
今年9月11日に福島県が発表した検査結果では、4万2千人の子どもの43%に甲状腺の異常(のう胞または結節)が見つかりました。とくに女子の被害は深刻で、6~10歳の54%、11~15歳の55%に異常が判明しました。通常なら百万人に1名と言われる小児甲状腺ガンが、38名の検査の中から初めて1名見つかりました。しかし、日本政府はガンと事故の因果関係を否定し、全く対策を取りません。


前回の4月26日の検査結果で3万8千人の子どもの36%に甲状腺の異常が見つかったとき、海外の専門家は次のように警鐘を鳴らしました(Business Insider 2012.7.19)。
「こういった甲状腺異常が一年も経たないうちに現れるというのは早過ぎます。普通は5~10年かかるものです。これは、子どもたちが大変高線量の被ばくをしたことを意味します。‥‥子どもたちに甲状腺結節やのう胞があるのは、異常極まりありません!」(オーストラリアのヘレン・カルディコット博士)
「福島原発事故後にこれほどすぐに、多くの子どもたちに甲状腺の嚢腫や結節が見られることに驚いています、なおかつこの事実が世間に広く知られていないことに驚いています。」(アメリカ甲状腺学会次期会長)

甲状腺でこれだけ早い時期にこれだけ多数の異常が見つかったということは、ふくしまの子どもたちが、今後、甲状腺の病気だけでなく心臓病など様々な病気を発症する可能性がとても高いことを意味します。それはチェルノブイリ事故による健康被害について、ウクライナ政府の最新の報告書[1]からも明らかです。
 
4、日本政府の対策
(1)、この深刻な被ばくに対する日本政府の対策の中心は除染です。しかし、チェルノブイリ事故から学び尽くしている日本政府はチェルノブイリの経験と同様、フクシマでも除染が失敗するのは最初から織り込み済みです。無意味な除染作業の間に、子ども達は被ばくし続けています。それは犯罪以外のなにものでもない、ではないでしょうか。


(2)、しかも、日本政府は、子ども達に対し「危険だと思うのなら、自主的に避難すればよい」という立場です。しかし、福島の子ども達は自主的な避難を選択しなければならないほど、何か悪いことでもしたのでしょうか。子ども達が遊んで原発を壊したのでしょうか。子ども達は自分たちが原発を誘致したのでしょうか。彼らには100%責任はありません。彼らは純粋の被害者です。他方、日本の国会も認めるとおり、福島原発事故は自然災害ではなく、人災です。日本政府は原発事故の加害者です。自動車事故では、誰も加害者に被害者を救護する義務があることを疑いません。誰も、轢かれた被害者が自分で自主的に病院まで行け、とは思いません。同じ人災である原発事故でも同様です。加害者である日本政府が純粋な被害者である子供たちに、自主避難しろと言うのは道徳的に決して許されることではありません。

5、チェルノブイリからの訓え
(1)、チェルノブイリ事故について、350の英語論文を元にしたIAEAの従来の公表記録に対し、ベラルーシ語、ウクライナ語、ロシア語を中心とした5千の論文に基づいた2009年のヤブロコフ・ネステレンコ報告[2]によれば、チョルノブイリ事故により世界で98万人以上の人々が命を失いました。福島は人口密度がチョルノブイリの5倍以上あるといわれています。
このままでは、福島で今後どれほど膨大な数の被害者が発生するのか、想像を絶するものがあります。
では。どうすればよいのでしょうか。簡単です。今すぐ、子ども達を避難させ被ばくから逃がすのです。なぜ今すぐか。チェルノブイリで世界標準とされる住民避難基準が採用されたにもかかわらず、98万人もの犠牲者を出したのは、その住民避難基準が不十分だっからではなくて、その基準の採用が事故後5年も経過してからです。人々はその間ずっと被ばくし続けていたためで、避難するのが遅すぎたのです。だから、今すぐ避難する必要があるのです。
(2)、これこそ、日本政府がチェルノブイリから学ぶべき最大の教訓です。福島の高校生がこう言いました「命のスペアはありません」。子どもの命が滅びたなら、福島が復興したところで何の意味があるのでしょうか。
集団避難はお金さえあれば実現できる最もシンプルな解決方法です。1959年、日本政府は原発導入にあたって、原発事故による被害額を国家予算の2.2倍(現在の国家予算なら200兆円)と試算済みです[3]。元々それだけの損害額を覚悟して原発の導入を推進したのです。金銭的に、福島県の子どもたちの集団避難は不可能だという言い訳は通用しません。今年4月、日本の財務大臣がIMFに、電話で、ヨーロッパの信用不安の防止のため500億ドル提供すると伝えたと報じられました。経済の復興のためにそれだけのお金が用意できるのあれば、命の復興のためにお金を準備できない筈がありません。


6、世界の良心の声を福島に
 

映画『シンドラーのリスト』を作った監督スピルバーグはこう言いました「ホロコーストで起きていたことは、当時、チャーチルもルーズベルトも知っていた」と。しかし、彼らは見て見ぬ振りをした。もし、当時、彼らが声を上げていれば、ホロコーストの悲劇も最小限に食い止められたのです。今の福島も同じです。原発を推進したいと思っている人たちは、福島の惨状を見て見ぬ振りをしています。しかし、もし世界中の人たちが声を上げれば、いま、福島に襲いかかっている悲劇を最小限に食い止めることができます。福島の子どもたちの命を救うことができます。それはひとえに世界の皆さんの良心にかかっているのです。
私たちは、何の責任のない福島の子どもたちを21世紀の「人道に対する罪」の犠牲者にする訳にはいきません。これはイデオロギーの問題でも政策の問題でもありません。子どもの命という人権の根本問題です。どうか、福島と関わる私たちと世界の皆さんとが「つながる」ことによって、福島の子どもたちを救い出して下さい。

2014年5月8日木曜日

父の涙、そして逃げる勇気(2014.2.28)


父の涙、そして逃げる勇気
                                                                          柳原敏夫
先日久しぶりに、ふくしまの子どもたちの避難支援のためのイラスト作成をお願いしに、ちばてつやさんにお会いしたとき、開口一番、「お父さんがお亡くなりなったそうで」と言われました。
「大地の子」のように、幼年時代、満州で九死に一生を得て帰国したちばさんには、同じ境遇を生き延びた親父のことが他人事には思えなかったのではないかと思いました。
明日の一周忌を前に、カミさんが、文集を編集し、父の写真を沢山掲載しましたが、その沢山の写真を眺めていて、あらためて、そこには決して収まることのなかった、終戦直後に満州平野を逃げ延びるときの父の姿が、脳裏の中で思い出されてなりませんでした。

1917年に新潟県佐渡島に生まれた父は、戦前、生来の人柄と大陸での生活のおかげで、能天気でお人好しの見本でした。それが終戦の1ヶ月で豹変しました。それまで、満州鉄道の職員として植民地生活の特権の端くれを享受していた父は、終戦前夜に至っても、大本営発表をうのみにして避難もしなかったふつうの人だった。しかし、8月9日、ソ連参戦の報と同時に現地招集されて事態が一変した。ろくな装備もないズサンな軍隊としてソ連兵と向かい合う羽目となり、偶然にも命を落とさず終戦1週間後に武装解除を迎えたが、今度はソ連兵に捕まってシベリア抑留になるまいと、ドブネズミのように満州平野を逃げ回る羽目となったからです。
このとき、父は初めて思い知ったそうです――自分は、軍の将校たち戦争推進者たちが逃げのびるための「盾(たて)」として召集され、ソ連兵との戦闘の最前線に立たされたのだ。自分はただの兵士ではないのだ、いけにえにされたのだ!と。
しかし、父の目の前にあるのは、途方もない満州平野だけで、自分を救ってくれるものは何もなかった。絶望する理由と現実はあり余るほどあった。にもかかわらず、彼は絶望しなかった。昼間は草原に身を隠し、夜間に行動して、1ヶ月後に中国撫順市に辿り着いたからです。でも、どうして? なぜ絶望しないで、逃げ続けられたの?それは長い間、私の謎でした。それは奇跡としか思えなかったからです。
しかし、父はこのとき、一度、死んだのです。だから生き延びられたのです。それまでの自分の無知を恥じ、「無知の涙」を流したからです。それまで行儀よくしつけられ、学校で社会で大本営発表をうのみにする羊のようにマインドコントロールされてきた自分を殺したのです。羊からドブネズミに生まれ変わったのです。
そして、ドブネズミに生まれ変わった彼の心を支えたのは「永遠の子どもらしさ」だった。彼はこのとき、子どもに生まれ変わったのです。この世で最強の者は子どもです。なぜなら、子どもには未来しかないからです。生きたい!という無条件の渇望しかないからです。世界一過酷な環境を父が生き延びれたのは生きたい!という渇望に支えられたからです。

このとき、もし父が絶望していれば、その後、私の命も、私の子どもの命も、昨年生まれた孫の命もありませんでした。いま、私が、子どもが、孫がこうして生きていられるのは、このとき父が絶望せず、逃げ延びてくれたからです。私は生まれて初めて、父の勇気に対し、そして先祖の勇気というものに対し、感謝の念を抱くことを知りました。
私たちが住む社会システムがタイタニック号と同じく、沈没することが時間の問題となった現在、沈没したあとに生き延びる私たちのために、父が残してくれた「父の涙と逃げる勇気」が最大の遺産であったことを痛感しています。                                                                                  
20142.28

※父のHP(オイの愉しみと闘い

2014年5月5日月曜日

3.11のあとに出現した新人類(2014.5.3)

近頃、獨協大学で、福島原発事故から子どもを守る市民型公共事業について、単発の講義する機会を与えれました。
ろくに準備する余裕もない、付け焼き場の話でしたが、驚いたことに、講義を聴いた学生の殆どが感想を書いてくれたことでした。大学から送られてきた350通の感想文を手にして、「涙をこらえながら聞いていました」といった感想から、原発事故が大人だけではなく、一見黙っている多くの若者をいかに震撼する未曽有の出来事であったかを思い知らされました。

当日は時間切れのため、講義の後半を省略したので、ここにその概要を記します。講義を聴いた人で関心のある方は読んでください。

講義のテーマは、福島原発事故という現実と向かい合うとはどういうことか。何をすればよいか。

1、最初に必要な認識は「 福島原発事故は2度発生する」こと。
1度目は「人間と自然との関係」の中で、2度目は「人間と人間との関係」の中で(※)。

 (※)科学技術(テクノロジー)の問題を、すべて自然科学の中で、つまり自然と人間の関係の中で解決できる、それさえうまくできれば、それで全部、結果オーライだと考える傾向があります(もちろん、それで解決できる問題もあります)。しかしそれは、科学技術の問題を、もっぱら自然と人間の関係でしか見ない発想であって、そこには人間と人間の関係の問題が抜けている。現実に、科学技術(テクノロジー)を左右し、それを押し進めたり止めたりする力が必ず作用していて、それが人間と人間の関係の力です。たとえば国家の力とか、経済の力とか。市民の力とか。そういう人間と人間の関係の中での力が、最終的に科学技術(テクノロジー)の方向が決まるので、そこを無視しては環境問題やテクノロジーの問題、安全の問題は解決できない。
だから、科学技術の災害についても、人間対自然という関係だけではなくて、人間対人間の関係を絶えず念頭に置かなければならないし、むしろ人間対人間の関係のほうが、
根本である。(柄谷行人「世界史の構造」31~32頁。305~306頁参照)
 

2、次に、これを認識する視点:2つの「視差」の中で考える(※)。 
 ①.世界からみた福島原発事故  ②.世界史から福島原発事故
(※)カント「視霊者の夢」から。
「さきに、私は一般的人間悟性を単に私の悟性の立場から考察した、今私は自分を自分のではない外的な理性の位置において、自分の判断をその最もひそかな動機もろとも、他人の視点から考察する。
両者の考察の比較は確かに強い視差を生じはするが、それは光学的欺瞞を避けて、諸概念を、それらが人間性の認識能力に関して立っている真の位置におくための、唯一の手段である。」

3、 世界からみた福島原発事故
①.菅谷明松本市長のメッセージ
 なぜ、彼は今頃、こんなメッセージを表明したのか?


 

②.外国人からの声
4人の代表的な声 なぜ、彼らはそのような声を発したのか? 

キャサリン・ハムネット



            
スイス・ジュネーブ市長レミー・パガーニ


           
ノーム・チョムスキー



小出裕章さん(非日本的日本人)

日本には、普通の人に1年間に1ミリシーベルト以上の被曝をさせてはいけないという法律がありました。また、1平方メートル当たり4万ベクレルを超えて汚染しているものはどんなものでも放射線管理区域の外に持ち出してはならないという法律もありました。しかし、福島第一原子力発電所の事故で、東北地方、関東地方の広大な地域でこの法律を守れない汚染が生じました。
 日本が法治国家だというのであれば、国家がそこに住む住民たちをコミュニティーごと逃がす責任があります。しかし、この事故を引き起こした犯罪者と呼ぶべき日本政府は、今は緊急時だとして、彼ら自身が決めた法律を反故にし、汚染地に人々を棄てました。そこでは、棄てられてしまった人々が子どもも含め、生活することを余儀なくされてしまっています。
 私は、日本に住む大人には、原子力を許し、福島原発事故を許してしまったことに何がしかの責任があると思います。しかし、子どもたちには責任がありません。そして、子どもたちは被曝に敏感です。子どもは泥んこになって遊ぶものです。雑草にだって触れるものです。子どもが子どもらしく遊ぶことのできる環境を保証することは本当なら国家の責任です。しかしでたらめな国家が子どもたちを被曝させ続けており、少しでも子どもたちの被曝を減らすことは、大人たちの最低限の責任だと私は思います。
 これまでにもたくさんの方々が、子どもたちを一時的にも汚染地から遠ざける活動を担ってきてくれました。今回、松本避難プロジェクも始まるとのことで、ありがたく思います。
  
                          2013/8/14  小出 裕章    」
       

③.ふくしま集団疎開裁判を報道するニュース
   日本のテレビは1回だけ(2011年6月24日、TBS)。 



④.福島の現実(12年10月のジュネーブ国連でのスピーチから)

  日本政府の三大政策「情報を隠すこと」「事故を小さく見せること」「様々な基準値を上げること」

           チェルノブイリ事故から徹底して学んでいること。

           キエフの学童疎開

  健康被害の実態

  映画『シンドラーのリスト』を作ったあとのスピルバーグの発言「ホロコーストで起きていたことは、当時、チャーチルもルーズベルトも知っていた」。


⑤.2013年4月24日の仙台高裁の決定(判決)
 いっせいに、(日本をのぞく)世界主要メディアが報道->レポート

⑥.「まつもと子ども留学」プロジェクトのスタート

4、世界史からみた福島原発事故
   百年前に発生した第一次世界大戦との類似性と真の新人類の誕生

①.大岡昇平の指摘

ひとりひとりの兵士から見ると、戦争がどんなものであるか、分からない。単に、お前はあっちに行け、あの山を取れとしか言われないから。だから、自分がどういうことになって、戦わされているのか、分からない。
それで、戦争とはこういうもので、あなたはここに出動を命じられ、それで死んだんだということを、なぜ彼等は死ななければならなかったのか、その訳を明らかにしようとしたのです。(「レイテ戦記」執筆後のNHKのインタビュー)
  
3.11のあと、ひとりひとりの市民から見ると、福島原発事故がどのようなものであるか、どうしたらよいのか、真実は分からない。「健康に直ちに影響はない」「国 の定めた基準値以下だから心配ない」とかしか言われないのだから。だから、一体自分がどういう危険な状態にあるのか、どう対策を取ったらよいのか、本当の ことは分からない。

 それで、ひとりひとりの市民にとって必要なことは、「レイテ戦記」のように、福島原発事故とはこのようなもので、このような危険な事態が発生していて、それ に対して必要な措置を取らずにいると、言われるままにいると、ひとりひとりの市民には、今後、大変な健康障害が発生することを明らかにすることです。「ふ くしま集団疎開裁判」もまた、放射能に対する感受性の高い子どもに焦点を当てて、この真実を明らかにしようと
                                                          ②.正体が明るみにされた人々の共通性
 第一次世界大戦が勃発したとき、それまで弱者保護、人権擁護、社会主義的な主張を唱えていた多くの政党、団体が一転して《祖国防衛》に回り(その本音は自己の《組織防衛》)、人々を戦場に閉じ込め、死に追いやるという《隔離政策》=戦争推進政策に追随。

本質的にはこれと似た事態が3.11以後、日本にも生じたのではないか。3.11以降、なぜ、山本太郎といった無名の人たちが子どもたちを守るために献身的な働きをしたのか。それは、3.11以前に、子どもの権利を擁護すると称していた様々な人権団体、人々が、受身に回り、殆どまともな救援活動をしなかったために、山本太郎といった無名の人たちが目立つほかなかった。山本太郎がすごいと感心するよりも、従来の人権擁護を自称する人たちのひどさに目を向けるべき。

③.事実経過の共通性

   
「世の中には五十年、百年経ってみて初めてその意味が分かるようになる出来事がある。今から約百年前に発生した「人間と人間の関係」の人災=第一次世界大戦がそうである。
当初、人々はこの戦争は短期間で終結する、半年後のクリスマスまでには家族と再会できると楽観して出征した。しかし、現実の進行は当初の予想を裏切り、過酷な大量殺戮兵器の出現、未曾有の死傷者・被害・惨禍をもたらした。しかもこの人災が収束したのは4年後(それはつかの間の休戦にすぎなかった)ではなく、31年後であったことを人々は後に思い知ることになる。人災=世界大戦の収束をもたらしたのはヒロシマ・ナガサキに投下された原爆であった。この時、人々は初めて世界大戦は核戦争による人類の絶滅で収束するという過酷な事実を思い切り頭に叩き込まれたのである。  
 今年3.11に発生した「人間と自然の関係」の人災=福島第一原発事故はそれに匹敵する出来事である。当初、人々はこの事故は短期間で収束する、遅くとも年内には自宅に戻れると楽観していたが、天下の政府と東電が核燃料棒の崩壊熱に翻弄され続ける姿を目の当たりにして、その見通しは崩壊した。しかし、現実の放射能汚染がどこまで進行するのか、「見えない、臭わない、味もしない、理想的な毒」(スターングラス博士)である放射能は黙して語らない。福島にも例年通り、草木は芽吹き、春は訪れたが、しかしそれはそれまでの春と断絶した「沈黙の春」だった。では、我々は、いつ、この人災が収束するのを見届けることができるのだろうか。そして、その収束をもたらすものは何だろうか。工程表の実行?そんなものはつかの間の処理にすぎず、現実に進行中の大気・土壌・海中への放射能汚染対策は指一本触れられていない。世界大戦の収束をもたらしたものが「核戦争による人類の絶滅」という過酷な事実だったように、それは何年か後、何十年か後の、人々の頭に原発事故は放射能汚染による地球の絶滅で収束するという過酷な事実が思い切り叩き込まれたときである」(
安全性評価(リスク評価)の亀裂・崩壊をもたらした福島原発事故」の冒頭から)

④.新しい人々の出現
未曽有の出来事はまた、無名の人々の中から新しい人間を出現させた。
以下は、原発事故がなかったなら、出会わなかったような人々--過酷な現実を最後まで行き抜くことができる希望の人々。


(1)、陳述書「 どんな犠牲を払って自主避難したのか(1)


(2)、
陳述書「郡山市から東京、川崎市に自主避難した母子と子どもの健康被害について

(3)、
陳述書「どんな犠牲を払って自主避難したのか(2)

(4).「3.29 シリーズ 子どもと大人のための学習会」の参加者からのメール(1)

Subject: 本日福島テルサにてお会いしました○○です。

本日福島テルサにて声を掛けさせていただいた○○と申します。本日は大変お疲れ様でした。ありがとうございました。
こども福島のMLから集団疎開裁判の件は知っていました。脱原発の前に、まず福島の子供達に必要なのは今すぐ脱被爆です。本来なら国が率先して行わなければならないことを、このような形でこちら側からアクションを起こさねば動かせないこの世の中に、本当に失望します。しかし子供達にとって、福島の人間にとって、柳原先生のような大人達がいらっしゃること、心より救われる思いです。本当に、本当に、福島の子供達のためにありがとうございます。
裁判官も人間です、と、京都でお世話になっている弁護士の先生がおっしゃっていました。そう信じて、この裁判も必ずや勝ち取れると思っております。

私は当時妊娠中でした。震災後出産してすぐに、上の2歳の子と赤子の3人で知り合いすらいない京都へと母子避難しました。それから1年経ち、主人が仕事を辞め新築の家を売り、京都へと越してきてくれました。私達はあの日からまるで戦時中のような毎日を過ごしておりますが、福島を出るも出ないも地獄なのです。しかし何よりも、福島の子供達をお守りください。彼らは何一つ悪くない。彼らはこの世の中の犠牲になったのです。

私は未就学児を抱え見知らぬ地でまだあまり動きようがありませんが、今日柳原先生やむとうさんのお話を聞いて、何かしたい!何かしなきゃ!私に出来ることは?とさらに強く思いました。これもご縁で、連絡先をお伝えしますので、どうぞ繋がって下さい。

長くなりましたが、心より感謝の気持ちを込めて。ありがとうございます。これからもどうぞよろしくお願いいたします。

○○ ○○

京都市○○区在住、福島市出身


(5).
3.29 シリーズ 子どもと大人のための学習会」の参加者からのメール(2)

Subject: 郡山学習会 お礼 ○○○○

 先日は、郡山での学習会に疎開裁判の呼びかけをして下さりありがとうございました。
これからの避難生活に不安でいっぱいでしたが、大変心強く、立ち上がる勇気が出ました。数週間まずは避難生活の基盤を整え、後に福島のこども達のため活動していきます。
 まずは先日のお礼と連絡先を送らせていただきます。
日頃のご活動に心より御礼申し上げます。今後ともどうぞよろしくお願い申し上げます。

自宅住所 
福島県郡山市‥‥
○○○○○○ ○○(10歳)

避難先住所
東京都‥‥

○○ ○○

【郡山市その2】(上記の方が別のスタッフ宛に送ったメール)
遅くまでありがとうございます。
これまで、こういった裁判をして下さっていることを知りませんでした。多くの市民も未だに同じ状況と思われます。是非、原告募集のチラシとともに継続的に置かせて頂きたいと思います。
 理事長の夫からもチラシ設置の許可は受けましたが、私が医療法人内で公に活動するのは難しいため、すみませんが、柳原先生、岡田様からの依頼でチラシを設置しているという形式にして頂けると助かります。
 柳原先生にお礼と連絡先のメールはさせて頂きましたが、メール転送もちろん構いません。お世話になります。
 
 震災直後は、本当に危機的状況でした。
そして、世界、国民の皆様、市民、従業員、家族で力を合わせ震災後の混乱からは立ち上がることはできましたが、その後の国政、県政、市政に失望し、無力感から身動きが取れずにおりました。
 しかし、県民、子供たちのためにこんなにもご活動下さる皆様に出会うことができて生き返る思いです。本当にありがとうございます。
 長々とすみませんでしたが、感謝と決意を込めて。今後ともどうぞよろしくお願い致します。

2014年5月4日日曜日

10.15郡山集会&デモへの呼びかけ(「ふくしま集団疎開裁判」について)(2011.10.9)

2011年10月9日
ふくしま集団疎開裁判弁護団 柳原敏夫

 
 3月11日から半年経ってみて感じることは、私たちは一種の核戦争の中にいるのではないかということです。日々、福島原発から放出された大量の放射性物質によって、外部から、そして体内に取り込まれ内部から、絶え間なくくり返される核分裂と同時に発射される放射線との果てしない戦いを強いられているからです。「核分裂による放射線の被ばく」という、目に見えず、ニオイもせず、痛みも感じない、要するに私たちの日常感覚ではぜったい理解できない相手との戦いの中にほおり込まれています。それは核物質(核種)との戦いという意味で核戦争です。
 戦争で起きる理不尽極まりない出来事が原発事故で起きてもおかしくないのです。

戦争について考え抜いた一人である、作家の大岡昇平は、太平洋戦争の天王山と言われたフィリピンのレイテ島の激戦「レイテ戦記」を書いたあと、NHKインタビューでこう語りました。

ひとりひとりの兵士から見ると、戦争がどんなものであるか、分からない。単に、お前はあっちに行け、あの山を取れとしか言われないから。だから、自分がどういうことになって、戦わされているのか、分からない。
それで、戦争とはこういうもので、あなたはここに出動を命じられ、それで死んだんだということを、なぜ彼等は死ななければならなかったのか、その訳を明らかにしようとしたのです。

しかし、福島原発事故も実はこれと同じではないか。
3.11のあと、ひとりひとりの市民から見ると、福島原発事故がどのようなものであるか、どうしたらよいのか、真実は分からない。「健康に直ちに影響はない」「国の定めた基準値以下だから心配ない」とかしか言われないのだから。だから、一体自分がどういう危険な状態にあるのか、どう対策を取ったらよいのか、本当のことは分からない。

それで、ひとりひとりの市民にとって必要なことは、「レイテ戦記」のように、福島原発事故とはこのようなもので、このような危険な事態が発生していて、それに対して必要な措置を取らずにいると、言われるままにいると、ひとりひとりの市民には、今後、大変な健康障害が発生することを明らかにすることです。「ふくしま集団疎開裁判」もまた、放射能に対する感受性の高い子どもに焦点を当てて、この真実を明らかにしようとしたものです。

但し、大岡昇平は、フィリピンのレイテ戦でひとりひとりの兵士がなぜ死ななければならなかったのかを明らかにするのに戦後20年以上も要しました。しかし、私たちは20年も待つ必要はあるのでしょうか。今すぐ行動を起こして、ひとりひとりの子どもたちがなぜ死ななければならないような危険な状態に放置されているのかを告発し、改めさせることが必要だし、しかも可能なのです。今だったら、まだ命を落とすことが避けられるのですから、間にあうのですから。

 大岡昇平はインタビューの最後にこう言いました。「『悪い奴にとって一番ありがたいことは、いい人がだまっていてくれることだ』。イギリスの古い美学者が言っていた言葉ですが、そんなことで、黙っていてはいけませんよ」

これまでずっと観客席で茶番劇を見物することには、もう飽き飽きした皆さん。
これ以上黙っていないで、NO!と言いたいと思っておられる皆さん。
「ふくしま集団疎開裁判」は子どもたちを放置する現状に対して、14名の子どもとその親が黙っていないでノーと言った裁判です。14名の子どもたちに続いて、私たちも黙っていないでノーと言いましょう。
0月15日の郡山集会&デモは、そうした皆さんが主役になる舞台です。
 ひとりひとりのつぶやきは小さくても、それが集まれば大きな声、そして力になります。
どうか、10月15日の郡山集会&デモに多くの皆さんに参加していただき、ひとりひとりの切なる願いを裁判所と郡山市に届けましょう。

※10.15郡山デモの報告-->こちら















【市民団体が公表】茨城県のホットスポット取手市の小中学24校の心臓検診、心臓異常のケース急増

【被害編】
まえがき
低線量被ばくによる健康被害をめぐっては、1986年のチェルノブイリ事故以来、小児甲状腺がんしか認めないIAEA(国際原子力機関)などの国際機関と、それ以外にも多くの病気があると主張するウクライナとの深刻・重大な対立があることはよく知られた事実です(2012年9月23日放送のNHK・ETV特集 シリーズ チェルノブイリ原発事故・汚染地帯からの報告「第2回 ウクライナは訴える)。

福島原発事故が起きた1ヶ月後の2011年4月、ウクライナの首都キエフで開かれた国際会議でも、ウクライナは、小児甲状腺がん以外にも実に多くの病気が低線量被ばくにより発症したとする「ウクライナ政府報告書「未来のための安全を発表しました。そこでも、様々な病気が多発、とりわけ子どもたちに心筋梗塞や狭心症など心臓や血管の病気が増加している事実を報告しました(上記NHK・ETV特集の文字起し->こちら)。


 本論
 2012年12月25日、取手市の市民団体(「生活クラブ生協取手支部」「放射NO!ネットワーク取手」、「とりで生活者ネットワーク」の三団体)は、市立小中学校24校の2012年度の心臓検診で、一次検査で「要精密検査」と診断された児童・生徒の数が前年度に比べて急増していることを公表しました。

市民団体が公表した資料を入手できていませんが、これを報道した東京新聞の記事によると、

1、要精密検査
一次検診を受けた小中学生1655人のうち、73人が要精密検査と診断、11年度の28人から2.6倍、中学生は、17人から55人と3倍強に増加(←ただし、一次検診がいつなのか不明)。

2、心臓に何らかの既往症
心臓に何らかの既往症が認められる小中学生、10年度の9人から11年度21人、12年度24人と推移。突然死の危険性が指摘される「QT延長症候群」とその疑いのある診断結果が、10年度の1人、11年度の2人から8人へと急増。

3、取手市の対応
市長の話「データを確認したうえで対応策を考えたい」(←ただし、誰からの質問なのか不明)

 コメント
取手市は茨城県の最も南の市で、ホットスポット地域の1つであることはつとに知られた事実です。
低線量被ばくにより心臓病が発症する可能性があることは、今年3月に来日したパンダジェフスキー氏の論文が警鐘を鳴らしていることでもよく知られた事実です。
本来であれば、取手市は、心臓検診の結果を自ら公表し、率先して、これに対する対応策を明らかにすべきです。
それをしないということは、「情報隠し」「事故の被害を小さく見せる」という3.11以来、政府と自治体に対する市民の根本的な不信をもたらした悪政が今なおくり返されているという批判を免れないでしょう。
 茨城県の最南端の市でイエローカードが出たことは、福島第一原発により近い地域に対する警告でもあります。
もし市町村が率先して心臓検診の結果を公表しないのであれば、そのときには、市民は自衛のあめに、取手市の市民団体のように、情報公開制度を活用して、検診データを入手するしかありません。->情報公開制度のすすめ  浜松市の解説 東京都港区の解説
 

衆議院HP掲載の『チェルノブイリの長い影~チェルノブイリ核事故の健康被害』

2011年秋に、チェルノブイリ事故の調査のため、衆議院の議員団がチェルノブイリを訪問した報告書が衆議院のHPに掲載されていますが、その中に、調査で手に入れた参考資料として、
チェルノブイリの長い影~チェルノブイリ核事故の健康被害』(2006年。Olha V. Horishna博士)

が、ネットで大きな話題になっています(木下黄太のブログ(資料)‥‥など)。

余りに話題になったせいか、現在(2013.1.5)アクセスできなくなっています。
とりあえず、全文の入手は-->こちら から。

また、そのさわり部分だけ紹介します。

                            結論

1986年4月26日に起きたチェルノブイリ原発事故は、過去に無いレベルの大量の放射能を放出し何百万人もの人々に影響を与えた、史上最悪の科学技術災害となった。被害を受けた人々の中には、60万人動員されたとも言われる事故処理作業員や34万 人以上の永久避難者、事故現場の風下にあたる地域で危険にさらされながら生活している居住者たちも含まれる。これらの地域としては、アイルランドやス ウェーデン、トルコ、フランス南部やルーマニア等、原発から遠く離れた国の人口密集地域も含まれている。当然のことながら、最も危険にさらされている人々 は、染色体異常や先天性障害に苦しむ元事故処理作業員とその子どもや孫たちであり、いまだに汚染された地域でいわゆる“低レベル”放射線の長期的影響を受 け続けている居住者たちである。
l         チェルノブイリ原発事故の最大の損害は、大量かつ多種の放射性物質が放出されたことである ― ストロンチウム90、ジルコニウム95、ニオブ95、モリブデン99、ルテニウム106、テルル131 132、ヨウ素129 131 132 133、セシウム134 137、バリウム140、セリウム141 144、ネプッニウム239.プルトニウム238 239 240、アメリシウム241、キュリウム242 244 などの超ウラン元素も相当な量が観測された。発散された放射性物質の全体量に対する放射性プルームの構成、つまり各放射性元素の割合は、数パーセント(プルトニウム)から概算30パーセント程度(放射性ヨウ素)と、それぞれに異なる。それぞれの核種の半減期についても、58日(不活性ガスとヨウ素131)から、24,110年(プルトニウム239)と、それぞれの核種によって大きく異なる。
l         事故後、初期段階では、主な放射線は半減期の短いヨウ素131 132、テルル131 132などによるものだった。それらは特に甲状腺に影響を与え、こうした元素がこの初期段階において主に激しい照射をもたらした。現在そして当面の間は、基本的には半減期の長い元素、特にセシウム13730年)、ストロンチウム90100年)などからの被曝による。またプルトニウム239 240 も、前述の核種に比べ人体に取り込まれにくく危険の度合いは相対して低くはなるものの、長期的被害をもたらすものである。セシウム137とストロンチウム90からの照射による外部被曝および内部被曝の集積線量が、最も深刻な脅威となっている。
l         放射性降下物による汚染が最も高濃度なのは、ベラルーシ南部、ウクライナ北部とロシアの南西地域である。これらの国の一部では、1480kBq/m240キュリー/km2)以上もの高濃度汚染が見られた。ウクライナだけでも、5万500平方キロメートルの土地、2218の居住地(240万人以上もがかつて生活、もしくは現在も居住)が汚染された。
l         チェルノブイリ事故後、放射能降下物はヨーロッパ内の半数以上もの国々で見られたが、汚染の度合いは深刻な3国に比べて低いものではあった。少量の放射性核種が北半球全般にわたり放出され、微量が日本やアメリカなどの遠方でも観測された。
l         事故後、セシウム137による汚染は、ドイツ南部、オーストリア、フィンランド、ノルウェー、スウェーデンの一部で40.0kBq/m2を超えた(通常の20倍)。ヨーロッパの一部では100.0kBq/m2となるホットスポットも現れた。このため西ヨーロッパの一部の住民は、これまでも、そしてこれからも低レベルの放射線による長期的影響を受け、比較的高いリスクにさらされることとなる。
l         チェルノブイリ事故による健康被害に関しては、曖昧な試算しか出されておらず、現在も論争となっている。唯一、議論の余地のない事実は、事故処理作業員、子ども、妊婦が最も影響を受けているということである。
l         その他にほぼ統一見解とされているのは、ベラルーシ、ウクライナ、ロシア南西部の子どもおよび大人の甲状腺ガンと内分泌系の病気が、事故後数日の広範囲に渡る放射性ヨウ素131放出を起因として、劇的に増加したことである。しかしながら、現在も何百万人もの人々が被曝し続けており、それ以外の全体的な健康への影響については、より一層不明確であり、更に深い研究が必要である。
l         1992年~2000年の間、避難した子どもたちの間で新生物(腫瘍)の発症が65倍となり、甲状腺の悪性腫瘍については198フ年の60倍となった。WHOとその他の機関の各研究によると、ベラルーシの汚染地域内および周辺の子どもたちの間で、1993年までに甲状腺ガンは80倍に増加、1996年には90倍となった。同じ期間に、ウクライナ全土の子どもの甲状腺ガンは10倍となった。
l         IAEA(国際原子力機関)および国際的な放射線医学研究グループの多くにとって、チェルノブイリ事故後10年間における急激な甲状腺ガンの増加は想定外であった。これは着目すべき点である。これらの研究機関では、コンピューターによる分析・計算と、広島・長崎の原爆被災者の研究例から、甲状腺ガンについてより低い数字を予測しており、しかも被曝から1520年後までは発症しないものと考えていた。これらの機関は1990年代終わり頃まで、自分たちの予見を擁護し、甲状腺ガンの増加を否定し続けた。他にもIAEAによる最近のレポートではわずか4000人 が追加でガンにより死亡するとの試算だったが、これも同様に誤った想定、機関側の偏見、限られた情報から導き出されたものだった。こうした想定は、今後長 期にわたる慎重かつ公正な、ハイリスクおよび比較的リスクの低い人々を対象にした研究によって書き換えられねばならない。
l         内分泌系器官は、特に放射線の影響 を受けやすい。内分泌系疾病は、最も被害を受けた子どもたちの間で、ウクライナの子ども全体に比べて3倍の率で発生している。従って、汚染地域に住む子ど もたちや避難した子ども等の特にハイリスクの人々は、更に慎重な調査を受けるに値する。もう一点大事なこととして、事故後に事故処理作業員や避難民の子ど もとして生まれた、グループⅣのカテゴリーの子どもたちですら、ウクライナの同年代、同様の経済環境の子どもに比べ、2.7倍の確率で内分泌系の病気にかかっている。
l         チェルノブイリ事故後何年もの間、 各国の学者たちは、被災者の間で白血病やリンパ腫の顕著な増加は見られないと言い張ってきた。こうした中、ベイラー医学スクールの専門家の監督のもと、ア メリカ海軍カレッジの出資で行われた詳細な調査で、汚染地域であるジトームイル地方(ウクライナ)の子どもたちと、チェルノブイリ以前の段階で国内でガン と白血病の発生率が最も高かったポルタヴア州の子どもたちとの比較が行われた。その調査によると、白血病の率は1987年以降、1996年にピークに達するまでの間ほぼ平行して増加した。しかしながら、新たに白血病と診断されたケースはジトムイール地方のほうが2倍多く、急性リンパ性白血病の新たな診断は男児の間では4倍となり、血液サンプルには明らかに被曝の遺伝子的影響が見られた。
l         事故処理作業員や避難者、汚染地域に住み続けている人々の子どもとして生まれた者の間では、血液や造血器官の病気が増加した。この種の病気の疾病率は国内の他の地域の子どもの2.03.1倍となった。
l         チェルノブイリ事故との関連性が最も強いと言われる問題のーつとして、低線量の放射能が妊婦や胎児の発達に与える影響があげられ、特に先天性欠陥の頻度や原因と関わっている。
l         ウクライナの国立小児医療・産婦人 科機関の研究によると、たとえ低線量でも電離性放射能に汚染された地域に住む妊婦においては、胎盤への放射性元素の蓄積が見られた。別途、ウクライナとベ ラルーシの研究によると、汚染地域に住んでいる女性においては、比較的汚染の少ない地域に比べ著しく高い率で流産や妊娠合併症、再生不能性貧血、早産など が起こっている。(Petriva他およびHulchiy他の研究)
l         何十年もの間、科学者たちは、たとえ微量であっても放射能は内分泌系への障害や先天性欠陥の発生に影響するということを認識していた。1996年および2002年、 ベラルーシとウクライナの科学者らが、被曝者の間で相当な内分泌系疾患の増加を確認している。イスラエルおよびウクライナに住む、元事故処理作業員の子ら は、チェルノブイリ事故以前に生まれた兄弟姉妹に比べ7倍もの率で内分泌系障害を発症している。これだけ、その他の点において類似した対象者の間で、劇的 な相違が出てきていることについて、決定的な要因を証明することは科学者たちにとっても難しいことである。(Royal Society of Medicine(王立医学協会)、WeinbergStepanov他の研究)
l         ウクライナ、ベラルーシ全土におい て、チェルノブイリ事故後に先天的欠陥や深刻な障害が顕著に増加したことが、医療従事者たちにより報告されている。これらの障害は、口蓋裂、多指・欠指 症、欠肢や奇形、内臓の欠如や奇形、眼腫瘍、脊髄披裂、複数の先天性欠損を持つケース等々、手術で治療することのできない障害である。それらの報告のほと んどは系統立ったものではないが、広く伝えられているとともに、信頼できる医療業界からの報告も含まれており、相当な研究資金を費やし更に精査することを 命ずるに足るものである。産科医や新生児科医によると、事故前にもこのような先天的障害が見られたが、それらはまれな例であり(5年 に1例程度)、チェルノブイリ事故後はこうした遺伝子的障害を持って生まれる新生児は毎年数例あり、特定のグループで発症していることから、母体の環境的 要因(被曝)との結びつきが大いに考えられる。ウクライナ北部など、産業に乏しく、農民も殺虫剤を購入する余裕が無く有機農法に頼っている地域では、遺伝 子的変異を放射能の影響以外の理由と結びつけようとしても説明がつきにくい。ウクライナおよびベラルーシでは、きちんとした先天異常の記録がないが、別途Yukio Satoh他(1994年)およびUAPBD2004年)による多数の新生児を対象にした研究によると、通常では非常にまれであるはずの先天性欠損症が多く見られており、通常であれば、更に多数を対象にした調査でさえ、これだけの発症数は見られないはずである。
l         チェルノブイリ事故の被害者(生存 者)の子供たちにおいては、管状骨や歯胚などの器官にアルフア粒子や放射性核種が蓄積したホットスポットが見られた。近年では、高い放射線の地域に住む母 親たちの死産児において、骨細胞へのアルフア放射性核種の蓄積量が何倍にも増加している。
l         セシウム137とストロンチウム90は、 それぞれカリウムとカルシウムに非常に似た働きをし、骨細胞に吸収されやすい。研究者たちは脊髄の先天的奇形など発育不全の子供たちを広く調査する必要が あり、こうした成長の異常はウクライナやベラルーシの孤児、特に事故後数年のうちに生まれた子供たちの間に多く見られる。(雑誌TIME1994年4月18日号;アカデミー賞受賞ドキュメンタリー映画「チェルノブイリ・ハート」より)チェルノブイリ地方では、1950年代核実験後のマーシャル諸島共和国と同様に“クラゲベビー”と呼ばれる骨格の無い赤ん坊が死産として生まれるケースが、医師らにより記録されている。
l         幼い頃の被曝が、ウクライナとベラルーシの女児の(将来の)生殖機能の健康に悪影響を与えてきた。14年間に及ぶ産科患者の記録により、ウクライナの小児科・産婦人科機関では、被曝した地域では通常の妊娠がわずか25.8%であった。つまり、75%近くもの妊婦が妊娠合併症を煩っている。一方で汚染の無い地域の妊婦は、2.5倍の率で問題なく健全な妊娠期を過ごしている。被曝した妊婦のうち33%が、初期もしくは二次性の欠乳症(授乳期における母乳量の減少)を経験している。
l         子供の頃に甲状腺ガンの手術を受けた妊婦の健康に関しては、通常の妊婦の研究に加え、特に厳粛なる調査をする必要がある。甲状腺ホルモンの代替として投与する薬について、長期連用した際の胎児への影響についても、これまで真剣に研究がなされていない。
l         小児科医たちは、被曝地域の子供たちの骨および筋細胞における疾患の著しい増加を指摘している。汚染されていない地域の子供たちと比べて5倍骨折が頻発している。また、筋力や運動能力の障害は、ウクライナ国内の非汚染地域の3.3倍にもなる。
l         子供の頃に被曝した女性は、しばし ば骨細胞の異常や早期喪失、歯の退化、およびホルモン系の発達やミネラルの代謝において急激な変化を経験することがしばしばある。こうした症状は胎児の成 長に悪影響をもたらすことが多い。彼女たちが出産した際は、障害児の生まれる確率が非汚染地域と比べて高い。
l         汚染地域に住む子供たちに、特定のミネラルの欠乏が見られた。これは、代謝の様々な過程において悪影響を及ぼし、病気の要因をつくることがある。
l         子どもの発達に関する複数の臨床研 究によると、汚染地域出身の母親から生まれた子供たちは、比較的汚染の少ない地域の子どもたちに比べ、一般的に運動能力の発達の遅れ、より深刻な注意力障 害、記憶力の貧困、より低い反射能力およびその他の神経系の働きの脆弱さが見られ、身体機能的な成熟は、他の子どもたちに比べて遅れがちである。
l         事故処理作業員とその子どもたちの身体細胞における染色体変異はより程度が激しいことが、複数の研究データにより示されている。こうした放射能による染色体異常は、腫瘍の発生リスクや発ガン性を高める。
l         母胎で激しく被曝した子どもたちには免疫不全が見られ、特に910歳の時に症状が見られた。
l         高い放射線量の地域に住む子どもたちには、染色体異常を誘発する症状が見られている。
l         低線量の電離放射線がDNA細胞の変質(分裂と再編成)を誘発する。こうした異常なDNA変異は細胞核でも起こりうるもので、それは細胞破壊をまねく。
l         動物実験での発見であるが、体細胞 突然変異および胚死亡は徐々に増加していき、さらには世代を経るごとに倍増し加速していく。こうした実験結果により、人間においても、チェルノブイリ事故 の影響が世代を経るに従って激しくなると想定できる。今や私たちは、「チェルノブイリ事故の孫世代」という新たな世代の出現を目の当たりにしており、この 世代は、染色体異常や免疫不全、その他放射線被曝のいまだ解明しきれない生命や健康への脅威という迷惑な“遺産”を受け継いだ子孫たちなのである。
l         汚染地域に住む子どもたちの数々の身体的障害の内訳は、比較的汚染の少ない地域の子どもたちとは異なっている。リンパ系および骨髄のガン、中枢神経や呼吸器系の病気がより頻発し、一方で非汚染地域では、精神異常や行動異常、神経系の病気が起こりやすくなっている。
l         チェルノブイリ事故後のウクライナ、ベラルーシ、ロシアの死亡率を算出するにあたっては、多くの要因が関わってきており、現時点で結論的に放射線被曝と増加した死亡率を単純に結びつけることはできない。ただ、チェルノブイリの事故処理作業員たちは当時まだ若く、多くが20代で、身体的に最適のコンディションである兵士や消防士であったが、彼らの死亡率のパターンについては、調査する必要がある。こうした元事故処理作業員たちが40代で多数死亡するということは想定しがたい。しかしながら、事故後20年の問、彼らの死亡率は一般のウクライナの労働人口に対し2.7倍 以上もの数字となっている。これは、広く公表されていないことだが、元事故処理作業員の各年齢層における死亡率は、常に同年代の一般人よりも高くなってい る。また、ソ連時代終盤には、医師らは死因または死に至る要因として、放射能被曝と診断することは禁止されていた。更には、全身被曝量と内部被曝量につい てごまかすよう、医師らに命令が下っていた。現時点の試算では、事故処理作業員の死亡率は2010年までに21.7%にも達しうるとされている。
l         チェルノブイリ原発事故で最も被害を受けたベラルーシとウクライナ2国が、ヨーロッパで唯一1990年台に著しい人口減となっており、国連の当該担当部署は人口統計上の明らかな急減について、懸念を表明している。(ウクライナの人口は1991年から2001年の間に5200万人から4830万 人に減少)市場自由化という「ショック療法」的な経済の変化や社会的ストレスを原因のーつと考えることもできるが、その場合は同様の社会的変化を経験した 他の東ヨーロッパ諸国でも、同じようなことが起こるはずである。戦争、飢饉や疫病、海外移住も無い状況下でこのような急激な減少があるということは、憂慮 に足るものであり、少なくともチェルノブイリ事故の放射能被曝を重大な要因として排除することはできない。
l         ウクライナでは、チェルノブイリ事故の被害者の間で病気が多発し、ウクライナ国民一般における病気の流行よりも顕著に多い。汚染地域の疾病率は、比較的汚染の少ない地域と比べて2.6倍となっている。汚染地域での半年ごとの病気の増加率(新たな診断)は10%であり、比較的汚染されていない地域では0.39%となる。
l         放射能汚染地域での疾病率の増加、 新たな病気の発生について、人間は短期間での急激な放射線の変化に身体が順応しきれないものであり、様々な要因が重なって起こっている。汚染地域に住む子 どもや青年、若者の健康に限って見ると、急激に様々な器官の機能不全が起こり、一般的な治癒までの期間とは異なり長期にわたる慢性疾患となるうえ、通常の 治療法が効きにくくなる。
l         事故直後、子どもの間で特定の病気が増加したが、それは段階ごとに特定の性質を持つ免疫機能不全に関わるものであった。低線量被曝によって染色体異常や病気の誘因が存在する状況下で、免疫力の低下は特に危険である。
l         臨床医たちは、異常に高い率での腫瘍(良性および悪性)の発生を観測している。ある一定量の放射線を浴びた子どもたちに、新たなガン腫瘍の形成が見られた。 1992年から2000年の問に、避難した子どもたちの新たなガン疾病は65倍に増加。甲状腺の悪性腫瘍は1987年に比べ60倍に増加している。
l         染色体組成は、放射線被曝に危険な までに非常に敏感であることが判明した。チェルノブイリの子どもたちの染色体に関わる病気の発生率は、ウクライナ子ども全体の3倍も高い。この点で最もリ スクの高いグループは、汚染地域に住む子どもと避難した子どもたちである。これらの子どもたちにおいては、染色体の損傷マーカーが国全体の子どもたちの ケースと比べて非常に多い。事故処理作業員や避難民、汚染地域に住む親たちから生まれた子供でさえも、通常より2.7倍の率で染色体疾患を患うということも、注目すべき点である。従って、こうした染色体への損傷が遺伝して、次世代にも受け継がれることがわかる。
l         事故処理作業員の子ども、避難者および汚染地域住民の子どもの間では、造血系器官の病気が増加し、ウクライナ国内の住民一般と比べると23倍の発症となっている。
l         低線量の被曝が集積すると、人体の健康に大いなる危険を及ぼす。
l         チェルノブイリ事故直後、最も差し 迫った問題は低線量被曝が妊婦を通じて胎内の子どもの生命にどのように関わり、予宮内での胎児の発達や先天性異常の発生率にどう影響していくかという点で あった。電離性放射性物質の低レベル被曝を受ける地域に住む妊婦の胎盤には、事故後継続して放射性物質の蓄積が見られている。これは、妊娠中の様々な疾病 につながる。西洋の保健専門家の監督のもと、ベラルーシとウクライナで行われた研究では、汚染地域の妊婦は通常の線量の地域の妊婦に比べ、非常に高い率で 妊娠合併症を発症している。
l         ウクライナの子どもの骨細胞と乳歯にはアルフア放射性核種やホットパーティクル(ウランを含む超高放射性微粒子)がまだらに蓄積している様子が見られる。近年では、汚染地域の母親から生まれた死産児の骨細胞中にアルフア粒子と放射性核種が増加している。
l         女児の被曝は、将来の生殖能力に悪影響を及ぼす。子どもの頃被曝した女性においては妊娠率が25.8%と非常に低く、非汚染地域の女性(64.5%)の2.5倍低いことになる。
l         チェルノブイリ事故後の20年間、ウクライナの労働人口の死亡率と比べ、事故処理作業員の死亡率は2.7倍の率である。近年の元事故処理作業員の死亡率を見ると、国内の似た条件の人口と対比すると、統計的に非常に高い率となっている。このままの率が続くと、2010年までに21.7%の死亡率に達することが、人口統計学者たちにより予想されている。
l         被害を受けた人びとの疾病率、死亡率、障害、生活の質に関する諸データは、チェルノブイリ・フォーラム(20059月)による、事故後の被害についての楽観的評価には、合致しないものである。
l         チェルノブイリ・フォーラムにおける健康被害に関する発表は、客観的なものではなく、事故の健康への影響について国際社会で共有されている情報のうち、恣意的で不完全な情報をまとめたものである。
l         チェルノブイリ・フォーラムの保健 の専門家たちが指摘した精神障害は、充分な根拠に乏しいものである。というのも、チェルノブイリ事故を発端とする最も深刻な健康被害は、人々がパニックに 陥ったことによる精神障害ではなく、放射線被曝がもたらす実際的な健康被害についての憂慮であり、また、放射能降下によって影響を受けた地域では実際に放 射能によってもたらされた体調不良に対しての精神的負担なのである。国際的に著名な精神科医のDr. Simeon GluzmanDr. Evelyn Bromet(ニューヨーク・ステート大学ストーニーブルック校)によるチェルノブイリの家庭を対象にした心理学的研究によると、ごく一般的に身体的疾患がもととなって患う心労やうつ状態と同様の症状が観察された。
l         ICRP(国際放射線防護委員会)やその他の機関が設定した放射線のリスクに関する指標では、放射線被曝による健康への被害や影響について、実態を予測することができない。ICRPが ベラルーシとウクライナの子供や大人の間での甲状腺がんの急激な増加を予測できなかったことからも、その指標に欠陥があることが露呈されたのである。数学 的指標は、実際に危険にさらされている人びとを慎重に検査した厳密な臨床研究に取って代わることはできない。そういった臨床研究は、特定の種類のガンや一 種の器官のみを対象とするのもではなく、様々な健康被害の可能性を考慮に入れた統合的なアプローチをとるべきである。IAEAICRPの とっている立場は誤っているだけでなく、チェルノブイリ事故の被害者の健康被害を軽減しうる様々な対策やスクリーニングの価値や効果を否定している点で、 危険なものである。更には、各国から放射線の影響、その防御・治療の技術の可能性について示唆に富んだ、重要な識見を与えてくれるような研究結果が出され ているが、IAEAICRPはこういった 有益な諸研究を無視しているのである。たとえば、最近まで原子力エネルギーに頼ってきた国々は、原子炉からある一定の距離の地域にヨウ化カリウムを備蓄し てこなかった。それはIAEAや他の機関が地元の保健担当者に被曝の健康被害は微々たるものと保証し、こうした対応は逆に住民の不安を不必要にあおるもの だと説明してきたからである。チェルノブイリ事故を受け、ポーランドのように、的確な予防措置を取り、放射性要素からの被曝を防ぐ薬剤としてヨウ化カリウ ムを配布した国々では、ほんの少数の子供たちしか甲状腺ガンにかからなかった。一方で、そういった対策を取らなかったベラルーシやウクライナでは、何千人 もの子供たちが甲状腺ガンにかかったのである。
l         国際社会は、原子力エネルギーの開発に伴い、透明で信用できる公共安全管理と監視システムが備えられることを、保証される必要がある。チェルノブイリ事故の被害にあったヨーロッパ中の国々が、こうしたシステムが欠如していたということを証明しているのである。
提言
l         「チェルノブイリ・フォーラム」の2005年 レポートでは、チェルノブイリ原発事故の放射線被害、環境、医学的および社会経済的な影響について結論を出しているが、本書で紹介している他の研究者たち による調査結果やその他の取りまとめ等で記録された健康被害を考慮しておらず、不適当なものとして取り扱われるべきである。
l         「チェルノブイリ・フォーラム2005」 の結論はあてにならないものであり、特に最も被害のあった3国(ウクライナ、ベラルーシ、ロシア)の住民や科学者にとっては信用されていない。従って、国 連やその他の国際機関は、独立した専門家調査団を設立し、被災地域の人々の健康や生活環境への事故の影響について現実的でしっかりとした根拠のある分析を すべきである。
l         放射能の危険について、新たなモデ ルを設定すること。それは、あらゆるレベルの放射能汚染について科学的見地から予見し説明することができるような充分なデータを全て考慮したものであるこ と。「予防原則」を適用しつつ、放射線による健康リスクについて全ての科学的データをもとにした詳細で独立した評価・査定をまとめること。
l         事故の被害にあった国々の政府との連携のもと、国連、WHOICRPIAEAおよびチャリティーや国際社会は、同事故の放射能汚染、医学・社会・経済的な影響を克服するための研究やブログラムに対し、継続して資金を提供できるようにすること。
l         出産適齢期の女性、妊婦、子どもに対しては、優先的に健康被害から守る措置を受けさせることとする。
l         国連、WHOにおいて適確な情報を扱う部局を設置すること。またIAEAICRPお よび各政府等が事務的機関を通じて、放射線がもたらしうる健康被害の可能性と、その可能性を最小限にとどめるための適確な情報を、被災住民および国際社会 に提供すること。こうした取り組みは、生命と健康を守るため信頼できる情報を受けるという基本的人権を擁護しつつ、展開されなければならない。
l         国連、欧州議会並びに全ての国家の 政府は、新たに代替エネルギー技術開発を追求するための最優先事項を確立すべきである。これらの機関、政府は、化石燃料や長期残存する核廃棄物を大量に発 生させる方法に頼らない電気エネルギーの新たな時代を築くための取り組みを、更に倍増する必要がある。
l         放射能汚染には国境は関係無い。環境汚染、食品の汚染、上下水汚染を通して国を超えて何百万人もの人々の生活が影響を受ける。従って、全ての関心ある国際団体のための、独立した国際的な放射線防護評議会を設けることを提案する。